高野文子作品原画展
仏検が終わった夜、鋭く研ぎ澄まされたかのような細い三日月を眺めながら目白のブックギャラリーポポタムへ。人通りもなく暗く寂しい路地をとぼとぼ歩く。そんな中、ぽつんと灯りをともした店を見つけたときは踊り出したくなった。お店の中にだけ嘘みたいにたくさんの人がいて、まるでオアシスのよう。心潤す品揃えという点でも本当にオアシスみたいだ。
今回のお目当は高野文子作品原画展。「黄色い本」「るきさん」「しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん」「ドミトリーともきんす」から原画の一部が展示されていた。高野さんの丁寧で細やかな手仕事をじっくり見られて感激する。「しきぶとんさん〜」の原画が想像していたより小さいので驚いた。マットなのに奥行きのある色使い、その美しさに息をのむ。
これまで高野文子のおそらく全ての作品を繰り返し読んできたけれど、やっぱり「黄色い本」は特別だ。本を読むよろこびを知っている人なら誰でも思い当たるであろう感覚が、ページをめくるたび鮮やかによみがえる。実ッコちゃんにとってのジャック・チボーは、私にとってジャン・クリストフだった。15歳の夏、私はいつもジャンと共にいた。あの暑い記憶ごと「黄色い本」は私を揺さぶる。
実ッコちゃんが洋裁の手伝いをしている傍らにさりげなく「チボー家の人々」単行本を置く場面の原画を前にして、自分がフランス語を始めたきっかけはここにある、と改めて気づかされた。私は物語が読みたいのだ。物語を読みたくてフランス語に取り組んでいるのだ。物語を通して異国の誰かに寄り添いたいのだ。あのときめきに出会うために長文読解に動詞活用に四苦八苦しているのだということを。
息子が腹を空かせて待っているので今回は早々に退散してしまったけれど、ポポタムにはまたゆっくり本を探しに来よう。本当に充実した一日だった。明日からもきっと、歌うように生きていける。
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しきぶとんさん かけぶとんさん まくらさん (幼児絵本シリーズ)
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