『写字室の旅』 ポール・オースター

 この大雪でヨガ教室がお休みになってしまったため、オリンピックのフィギュア男子フリーを観てから、夫が息子と相撲を取ったりギターを弾いている隙にオースター新作を一気に読みました。
 
 奇妙な白い部屋のベッドに座っている記憶を失った老人。そこへこれまでのオースター作品の登場人物たちが入れ替わり立ち替わりやって来る。彼らは皆老人に対して一様ではないものの恨みを抱いている。老人は作者自身の未来の姿なのか。
 
 老人の最も愛する女性が、あの作品のあの人物であることが、私も思い入れが強いだけに嬉しいけれど、その老いた姿に複雑な気持ちにもなりました。あれから今までどんなふうに生きてきてこんな寂しいところへ辿り着いたのか。実際の人生に美しい引き際など幻想だ、たとえ物語の中でも容赦しない、ということだろうか。
 
 どんなにしょうもない話をしていても、最後は必ず「なぜ生きるか」「なぜ私が私なのか」という普遍的テーマとがっぷり四つになるのがオースター作品の魅力だと思うのですが、今回それを期待していると肩すかしを食います。うーん、自伝的作品、というにはあまりに謎だらけでした。
 
 訳者の柴田元幸さんの解説によれば夏に本作とつながりのある作品の翻訳を出すそうなので発売を楽しみに待ちたいです。本作の作中作にもあった「戦争」がクローズアップされるらしいです。ただの作中作というにはかなり壮大な物語だったので、これはこれで完成された作品をぜひ読んでみたいと思います。
 

 

 

 

写字室の旅

写字室の旅