知らない外国人に話しかけた

先日、息子を連れて山手線に乗っていたときのこと。途中で外国人観光客が何人か乗ってきた。大きな声で話していたのでフランコフォン(フランス語を話す人)だとすぐに気付いたけれど、そのときはそう思っただけだった。

そのうち座っている私たちの、息子の隣が空いて、フランコフォンの中の50代くらいの女性が座った。息子は窓の外を眺めながらヤマザキパンのトミカで遊んでいたのだが、女性が息子に「truck……yes, truck……」とニコニコ話しかけ始め、息子も息子で人類皆兄弟の本領を発揮(生まれてこの方人見知りをしたことがない)、ニコニコと宇宙語で応じているうちに、ふたりはすっかり仲良しになってしまった。ひとり取り残された私。女性は親の私にも微笑みかけてくれる。こ、これはお母さん話しかけるしかないのでは……でも何を言ったら良いのやら。

「Excusez-moi, vous êtes française ?(失礼ですが、フランスの方ですか?)」ついに言ってしまった。渡航経験がないので、学校の先生以外の外国人に自分から話しかけるなんてほぼ初めてのことだ。
「Je suis québécoise.(私はケベック人です)」カナダのケベック州の人だった。でもケベックについてシルクドゥソレイユ以外何も知らない……迂闊なことは言えないな。

ケベック人女性「あなたの息子はフランス語を話せるのですか?」
私「いいえ、まだ日本語も話せないのです」

多少沈黙があっても息子が愛想を全力で振りまいてくれるので気まずくはならない。助かった。始めは息子に「truck」と言っていた彼女も「camion(フランス語でトラックのこと)」と話すようになった。

ケ「フランス語はどこで勉強したのですか?」
私「学生のときやったのですがすっかり忘れてしまいました。去年から少しずつ勉強をやり直しています」
ケ「やはり政治学に興味があるのですか?」
私「!!(え?どどどどうして?)いいえ、文学を学んでいます」

ケ「私は全く日本語が話せません」
私「そうですか」

こういうとき、日本人はたいてい親切だからどこへ行っても心配いりませんよ〜とか、日本の旅はいかがですか?とか気の利いたことを言うべきだったと後で思った。

私「これからみなさんどちらへお出かけですか?」
ケ「とても有名なお寺に行きます。アザクザの……」
私「浅草寺ですね。上野で乗り換えになります(銀座線に乗ってくださいと言えなかった……更に今日は暑いし人出もあるだろうから気をつけて、と言えたら良かった)」

私「来週フランス語のテスト(仏検の二次試験)を受けるのです。自信はありませんがベストを尽くそうと思ってます」
ケ「まあ!頑張ってね!ねえみんな聞いて!彼女フランス語の試験を受けるんだって!」

連れのケベック人たちがみんな「Bon courage !(頑張って!)」と声をかけてくれてさながら壮行会のような雰囲気に。私たちが降りるときには息子の靴を履かせるのを手伝ってくれたり、とても気のいい親切な人たちだった。旅行、楽しんでくれていたらいいな。

息子を妊娠してからこの3年ほど、実にいろいろな見ず知らずの人に話しかけられるようになったけれど、自分からここまで踏み込んで話すようなことはなかった。まして相手は外国人。超社交的な息子がいなければ出来なかったことだと思う。二次試験のいい実践練習になったし、何より自分のひどいフランス語でもフランコフォンに通じると分かって自信になった。


私たちが電車を降りると別の外国人青年二人組がフランス語で話しかけてきた。山手線で彼らが反対側の座席に座っていたのは分かっていたけど、彼らもフランコフォンだったとは。でも人混みも凄いし息子に気を取られているし何を言っているか聞き取れなかったので「Pardon ?」と尋ねたら「フランス語をどうやって勉強したのかお聞きしたのです」と流暢な日本語で答えられた。負けた……。でもムキになってあくまでもフランス語で押し通す私。
外国語をまくしたてる日本人と流暢な日本語で応じる外国人……側から見たら異様な光景だ。
彼らはフランスから来た大学生で英語を教えているとのことだった。こちらに名刺を渡しながら「ぜひ教室に遊びに来てください」と美しい日本語で勧誘してきたので「残念ですが子どもが小さいので毎日忙しくて行く時間がありません」と下手くそなフランス語でお断りした。
別れた後で名刺をひっくり返したら宗教の勧誘だった!びっくり!英会話教室は釣り餌だった。でも堂々と勧誘すればいいのにな(もちろんもっとはっきりお断りするけど)。こんな極東まで布教に来ているのだから、きっと強い信念があるのだろう。


とにもかくにもこの日は面白い体験の連続だった。息子を連れて山手線をぐるぐるすればどこかでまたフランコフォンと話す機会が得られるかもしれない。

トミカ №49 ヤマザキ・パントラック (箱)

トミカ №49 ヤマザキ・パントラック (箱)

息子に初めて買ったトミカ。ボロボロだけど出掛けるときも寝るときも一緒、未だにお気に入り。