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『子は親を救うために「心の病」になる』高橋和巳

 妊娠中、私も人並みの親になりたくて、それなりに育児書など読みました。

 参考になったものもたくさんありました。その多くには、子どもにこのように接してはいけないという禁忌も書かれていたわけですが、それを読むたび落ち込みました。

 自分の親からその禁忌ばかりを受けて育ってしまった人間が親になった場合、どう子どもと接していけばいいのだろう。そもそも自分を肯定することが難しい人間に育児は可能なのか。それについて書かれている本はありませんでした。

 産んでからは毎日戦争でそんなこと言ってる場合ではなくなりましたが、悩みが消えたわけではありません。

 この本の中にひとつのヒントがありました。

 目の前にいる親は、暴力を振るい、ご飯も出してくれないことがある悪い親である。でも、子どもはそれ以外の親を知らない。自分が生き延びていくためには、その親に従うしかない。人は誰でも生きていこうとする。そのために必要なことを実行することが「善」である。だから、子どもにとっては、目の前の「悪い親」に耐えることが「善」であり、その逆に、耐えられずに逃げ出すことが「悪」となる。悪に耐えることが「善」で、「善」を求めるのが「悪」である。こうして「普通の」人とは善悪が逆転する。
(中略)
その心理システムを再び逆転して正常にもどすのは、親子関係が一番である。
 抑えてきた善、失っていた善を思い出させてくれるのは、子どもの笑顔である。子どもは「この世界」が善なのか、悪なのか、まだ知らない。だから、彼らはためらうことなく笑顔を返す。
 親が生きていくためにとっくの昔に閉じてしまったものを、子どもはまだ持っている。
 親は子に救われる。

 この「善悪の逆転」について、まったく考えたことがなかったのでハッとさせられました。

 結婚したばかりの頃、「矢ちゃんは絶対子どもを産んだ方がいい。子ども時代をやり直せるから」と言ってくれた知人がいました。彼女には孫もいるので「私は大人になってから2回も子ども時代を経験できたのよ」と楽しそうでした。そのときは子どもを利用するみたいに思えて彼女の考えには抵抗があったのですが、息子と過ごすうちだんだんその意味が分かってきた気がします。

 息子に自分と同じつらい思いをさせてはいけない。だからとにかく「普通の」親にならなくてはと思い続けていましたが、親になったからって全能になれるわけじゃない。親が子どもに助けてもらってもいい。実際日々息子の笑顔に救われてばかりです。子どもの笑顔は本当に何ものにも代え難い。

 そして著者のクライアントの話を聞く姿勢がとにかく素晴らしいと思いました。話を聞くことは相手の存在を認めること。私も夫をはじめ周囲の人たちに話を聞いてもらってここまで来ることができたんだと思っています。

 だから、これからは私が誰かの話を聞く番。まず、誰よりも息子の話をじっくり聞けるお母さんになりたいです。