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率直な人々

フランス語

仏検も終わり勉強からひとまず解放されたとはいえ、毎日日記をつけたり、ラジオを聴いたり、メールを書いたりはしている。日常生活で関わる機会をなくしたらフランス語なんてあっという間に忘れ去ってしまうだろう。

学生のときは小説を原文で読んだり、映画を字幕なしで見られたらそれでいいやと思っていたのだけど、すべて何も実現せずに終わってしまった。だから今回はちゃんと話せるようにもなりたいと思っている。でも相手もなくそうするのにはやはり限界がある。

最近はいくつもの会話教室に会話カフェなるものができている。いくばくかの参加費を払えば飛び込みでフランス人と会話ができる。もちろん正規の授業ではないけれど、なかなか定期的に学校に通えない身にはありがたいことだ。

もうだいぶ前のことになるが、その中の一校を訪ねてみた。受付で申し込み用紙に記入していたら、「コーヒーにお菓子はおつけしますか?」と聞かれたので是非とお願いしたら「お菓子をいらないという方もいらっしゃいますので一応お伺いしました」と受付嬢。奥床しい人がいるもんだなあ。

その日の参加者はなんと私ひとりに対し男性フランス人教師ふたりという贅沢な状況。たくさん参加者がいて会話になかなか入り込めなくて終わるのかな〜と思っていたのでびっくりした。

会話はなぜフランス語を勉強しているのか、フランスの何に興味があるのか、という当たり障りないところから始まり、どこに住んでいるのか、家族は、といった個人的なことにまで及んだ。ふたりから矢継ぎ早に繰り出される質問を聞き取って答えるのに四苦八苦。何度も聞き返してうんうん考えてやっとのことで答える、を繰り返していたら、ひとりの先生がこう言ってきた。

「答えるまでそんなに時間をかけてはいけません。フランス人にとっての会話はテニスと同じで、聞かれたらすぐ答えるのが基本です」
「でも言葉が出てこないので……」
「あなたは外国人なのだから間違えて当然です。そんなこと相手は分かってます。それより即答することが大事なのです」

それでしばらくの間一生懸命なるべく早いつもりでよろよろ答えていたら、また教育的指導が飛んできた。

「あなたはなぜ質問しないのですか?」
「???」
「あなたは僕に興味がないのですか?」
「???」
「フランスでは会話とは質問し合うことです。質問しない場合、相手に興味がない意思表示と見なされますよ」

えええそれは厳しい!答えるのに精一杯なのに質問しろと?そこで乏しい知識からどうにかこうにか質問を絞り出す。1時間があっという間に過ぎていった。へとへとになった。面白かったけどね。

この日私は菊柄のシャツを着ていたのだけど、それに対し、菊は日本では天皇の象徴だし、葬式の花の代表だけど、なぜそれを着るのかと尋ねられたので、それは柄による、このシャツから天皇や葬式を想像する日本人はいない、と答えたら、何故?と何度も突っ込まれうまく答えられなかった。今後の課題だな。そもそも菊=葬式は明治以降に入ってきた西洋由来の文化じゃないの。口惜しかったので菊(chrysanthème )という単語をばっちり覚えてしまった。

どうしてお菓子をいらないという人がいるのかようやく分かった。喋るのに忙しくてお菓子など食べてる暇はない!あんなに喋りまくってフランス人はいつ口に物を運ぶんだろう。
以前ヨーロッパ在住の友だちが、各国の友だちの中で一番喋るのはフランス人と言っていたのも頷ける。

フランス人とじっくり会話したのはほぼ初めてだったけれど、すごく率直な人たちだという印象を受けた。今度仏検準1級を受ける、と言ったら、ちょっと難しいだろう、とあっさり言われたけれど、その代わり褒めるときはこちらが赤面するほど掛け値なしに褒めまくってくれる。フランス人のこういうところにコロッとまいってしまう日本人女性は多いだろうな。

後日別のフランス人にこの話をしたら、自分は会話にそんなことを強要しないけれど、でももしフランスに行ったらその通りだよ、と教えてくれた。そして同じく準1級は難しいかも、と言われた。やっぱり率直だな……。
会話カフェのふたりだってフランスに興味を持ってるくせに何も知らない私にフランス流を教えてくれたのだ。勉強になった。

多様性を認め合う社会、と簡単に言うけれど、価値観のこんなに違う相手と言葉で渡り合うのが外交なんだな、と当たり前のことを初めて実感させられた。

でも、だからこそそんなに話好きな国ならば今回のテロに報復する前に言葉を尽くして議論したのか?と問いかけたくもなる。毎日のニュースに胸が張り裂けそうだ。そんな簡単な話ではないことは百も承知だけれど、暴力を止められるのは暴力ではない。決して。

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