『フランスの子どもは夜泣きをしない』パメラ・ドラッカーマン

フランスの子どもは夜泣きをしない パリ発「子育て」の秘密

フランスの子どもは夜泣きをしない パリ発「子育て」の秘密


ずいぶん前に図書館で予約していたのをすっかり忘れた頃に入荷の連絡がありました。息子が2歳になった今読んでも面白かったです。ただの育児本と侮るなかれ、比較文化論としても興味深い一冊でした。

著者はパリ在住の三児の母(下ふたりは双子!)のアメリカ人ジャーナリスト、夫はイギリス人。

英米の母親たちが、日本の母親たちと同じように、あるいはそれ以上に「母親はこうあるべき」という世論に振り回されている姿が描かれていてとても意外でした。それに対してフランス人の母親はまず自分自身を大切にする、という主張で話が展開します。ひとりの幸せが全体の幸せに繋がっていくという、徹底した個人主義の国民らしい考え方です。

フランス人の赤ちゃんがどんなに遅くとも生後6ヶ月ほどで夜泣きしなくなる理由については、泣き出しても5分10分はとにかく待つこと、そして注意深く観察することが肝要であるとされています。息子の夜泣きに苦しみ、イギリスのジーナ式をはじめ、ネントレ(ネンネトレーニング)本を何冊も読み漁った身としては、特に目新しい情報ではなかったのですが、ジーナ式では起床から就寝までスケジュールが分単位できっちり組まれているのに対し、フランス式はもっと柔軟で自然体である印象を受けました。そして母親たちは揺るぎない自信を持ってネントレに取り組みます。

このやり方が必ず成功するとされるのは、初めから親と子どもの寝室が別であること(ジーナ式も同じですが)、母乳育児が生後3ヶ月(!)で終わることと決して無縁ではないような気がします。出産後、入院中の母親の食事にワインリストがついてくるというのには驚きました。産後すぐ飲めるのは羨ましいけれど、私たちそもそも哺乳類だよなあ……なんて思ってしまいます。母性が云々などと言う気は全くありませんが、私にとって授乳は幸せなひと時でもあったので。

ネントレや授乳以上に面白かったのがしつけについて。フランスで暮らす英米の子どもはN'importe quoi(好き勝手、なんでもあり)と評されますが、フランス人の理想の育児はCadre(枠組み)と呼ばれます。額縁や骨組みという意味をもつ単語ですが、子どもたちは親の決めたその枠組みの中で活動することを赤ん坊の頃から徹底的に教え込まれ、社会の仕組みを覚えていきます。子どもだから特別扱い、はこの国にはないようです。 

フランスにも保活があることにびっくりしました。日本と違って点数制ではなく、理論武装して審査員を説得して入園させることもある、というのが実にフランスっぽい。そして専業主婦も息抜きのために保育園を利用できます。羨ましい!フランス語学校で「2歳の子どもを保育園に通わせていない」と話したら先生たちにええっ!あんなうるさい生き物と一日中過ごすなんて……と驚かれましたがそういう事情があるのですね。

そして保育園の昼食にはコース料理が出てきます。渡仏経験のある人が言う「フランスは大人と子どもの線引きがきっちりしている」「外で駄々をこねている子どもなんて見たことない。レストランでも実におとなしい」という話も納得できます。

線引きといえば、公園でも子どもは子ども同士で遊び、大人は大人同士でおしゃべりしたり、ベンチで読書したり、コーヒーを飲んだりするのが普通だそうです。私は息子が歩き出してから、冬場外遊びに行くときショートコートしか着なくなりました。息子と一緒にすべり台やブランコをするためですが、子どもと一緒に遊具で遊ぶなんてフランスではあり得ないようです。

他にも子どもをやたらめったら褒めないとか、小さな子にも「Bonjour」の挨拶を必ずさせるとか、フランス文化について多少なりとも知識があると面白い話がいくつも出てきます。

これはフランスの育児事情についての本ですが、引き合いに出される英米の現状もまた興味深かったです。イギリスとアメリカ、全然違うと思うけど一緒くたに語っていいのか?という気もしましたが。ちなみに原題は『フランスの子どもは食べ物を投げない』。英米の子は投げるのね……。

今さらですが、妊娠中にこの手の本を何冊か読んで、育児にいろいろやり方があることを知って視野を広げておくべきだったなあと痛感してます。本に書いてあることを実行するしないは別として、気持ちに少しはゆとりが持てたかもしれません。でもこの本ははじめに書いたように育児中でない人も面白く読めると思います。おすすめです。