栞という名の青猫

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 今月でうちの猫が10歳になった。猫の10歳は人間の還暦近くに相当するらしいけれど、年齢がほとんど顔にも身体にも出ていないのでそうは思えない。羨ましいなあ。相変わらずジャンプ力も並外れてすごい。ただ以前にも増してひねもす寝てばかりになった。

 うちの猫はロシアンブルーという品種だ。名前からロシア出身かと思いきや、どっこいロシアの猫をイギリスであれこれ交配して誕生した猫なのでイギリス出身である。すらりとした体躯が特徴的なロシアンブルーだけど、本家本元のロシアの青猫(猫の世界ではグレーをブルーと呼ぶ)はもっとずんぐりしているらしい。寒いお国柄だから肉布団を着てて当然かもしれない。

 飼いはじめた当初、周囲から「猫は拾ってくるものだ」「なぜ可哀想な捨て猫を保護しないのか」「雑種のほうがずっと可愛い」などなど色々言われたことを思い出す。全部みなさんのおっしゃる通りで、私がただのわがままを貫いて飼うことになった猫だ。

 ロシアンブルーと暮らすことは、私の長年の夢だった。

 子どもの頃から、実家にはたくさんの猫がいた。ほとんどは捨て猫で、あとは近所で飼えなくなったのを押し付けられた仔たちだった。内猫外猫合わせて常時5〜6匹いる状態。こういう家によくあるパターンだけれど、どこで噂を聞きつけたのか、うちの前にわざわざ猫を捨てに来る輩までいて、狭い家はもっと狭くなり、猫屋敷と化した。

 どの猫のことも大好きだった。今でも全員の顔と名前を思い出せる。いつ爆発するか分からない父親との不安定な暮らしの中で、私にとって猫は唯一の安らぎと言っていいくらいの存在だった。自分は半分は猫に育ててもらった人間だと本気で思っている。

 子どものわりに猫の世話もよくするほうだった。家の手伝いは何ひとつしなかったくせに、猫のことなら下症の悪い仔の下の世話だって何だってすすんでやった。それだけ大切な存在だったのだ。でも、私が拾ってきた猫、私が飼うと決めた猫は、決まって長く家に居つかなかった。そんなこともあって、小学校高学年くらいから、「この家を出ること」と「自分だけの猫を飼うこと」がセットで私の夢になった。

 その頃、テレビでロシアンブルーの存在を知った。全身輝くような灰色の被毛に美しい緑色の目。この世にこんなに綺麗な猫がいるなんて……。初めて見るその姿に衝撃を受けた。当時「銀河鉄道の夜」のアニメ映画が上映されていて、その主人公のジョバンニが青猫だったことも大きかった。そのとき、いつか飼う自分だけの猫はロシアンブルーにしようと心に決めたのだ。

 実際にロシアンブルーを飼うことができたのは実家を出て随分経ってからだった。初めて会ったとき「シャーッ!」と威嚇ばかり繰り返し、お世辞にも可愛いとは言えない、そのオスの仔猫を飼うことになるとは全然思っていなかった、と後になって夫が言った。でも私は会った瞬間からこの仔しかいないと思った。なぜだか分からないけれどそう感じちゃったのだ。

 私は彼に、自分の曲から取って栞と名付けた。オスの猫に女名前。猫にならトンデモ名前でもつけられてしまう。

 一緒に暮らし始めたばかりの頃は「ずっと憧れていたあの仔がうちにいるなんて……!」とドキドキする日々だったけれど、お互いすぐに慣れて日常になった。ごくたまにうちに猫がいることを知らない人(工事のおじさんで猫好きとか)が来て、「こんな綺麗な猫初めて見ました!」などと言われると、「あ、そうか、この仔は美形だったんだった」と思い出す。
 美人は三日で飽きる、とはこういう感覚なのかもしれない。飽きるのではなくて暮らしの中に美が溶け込むのだ。

 もともとの性格は初対面の相手にもナデナデさせるほどフレンドリーなほうだったのに、彼が8歳のとき私が息子を産んでからはやたら人見知りになり、息子含め私たち家族にはこれまで通り優しいものの、来客には一切心を開かなくなってしまった。普段の息子との仲睦まじい様子(http://hayashinaoko.hatenablog.com/entry/2014/02/10/112810)を見ていると、ひょっとして、息子を外敵(彼にとっての)から守っているつもりなのかもしれないと最近は思うようになった。

 栞を飼い始めた当初、夫とは一緒に住んでいたものの、まだ結婚はしていなかった。栞の存在がきっかけで、いつの間にか彼の1歳の誕生日に結婚しようか、という流れになった。もし栞がいなかったらまだ結婚していなかったかもしれないし、そしたら息子だってここにはいなかった。今の私があるのは紛れもなく栞のおかげなのだ。

 栞、お誕生日おめでとう。そしていつも私たちを見守ってくれてありがとう。これからも家族4匹、面白おかしく暮らしていこうね。

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 ちゅーを迫る1歳と拒否する10歳。