海あかり

うす紫に燃える 窓の中の海
まばたきひとつで魚になれそうな気がしたの

膝の上の猫にとつおいつ話すのは
他人づてに聞いていた父と母のゆくえ

父さんは唄うたい 母さんは踊り子
波の奥に漂うちいさな島に暮らすという

ひとりきり娘は架空の恋人と遊び
海色のインクで宛もない手紙したためた

彗星が音たてて 海の底に沈めば
白く溶ける浜辺に打ち捨てられた誰かの声

父さんは唄うたい 母さんは踊り子
波の奥に漂うちいさな島に暮らすという

ひとりきり娘は架空の恋人と眠り
まぶたの奥に燃える 想い出にそっとくちづけた


(2002)