『神の詩 バガヴァッド・ギーター』 田中嫺玉訳

 Kindle版で読みました。
 電子書籍リーダーを買う際、koboではなくKindleにした最大の理由がこの田中嫺玉さん訳のバガヴァッド・ギーター(koboにはなかった)。叙事詩マハーバーラタ』の一部にしてヒンドゥー教の聖典です。
 
 戦場で家族や友人と敵同士になってしまい戦意喪失したアルジュナを、クリシュナ(ヴィシュヌ神の化身)は「それでも戦え」と励まし、「ひとは社会人たることを放棄することなく、現世の務を果たしつつも窮極の境地に達することが可能である」ことを伝えます。
 
 現代に置き換えれば、サラリーマンだろうが学生だろうが主婦だろうが、出家せずとも毎日の義務を果たすことが修行となり、サマディ(三昧)へ至ることができる、という教えです。普遍的かつ実践的なところが、単なる聖典にとどまらないギーターの面白いところだと思います。

 ヨガをはじめてすぐに岩波文庫の上村勝彦訳は読みました。こちらも平易で面白かったですが、田中訳は言葉の選び方が素晴らしく、それだけで強く惹きつけられます。訳によって作品の印象が変わるのはよくあることですが、とても読みやすくて自分の中にすんなりと入ってきました。
 
君には 定められた義務を行う権利はあるが
行為の結果についてはどうする権利もない
自分が行為の起因で 自分が行為するとは考えるな
だがまた怠惰におちいってもいけない

自己の本性を知って
それに満足し 歓喜し
それに安んじ 楽しむ者には
もはや為すべき義務はない

仕事の結果に執着することなく
ただそれを義務として行う人は
供犠の火を燃やさず祭典を行わずとも
真の出家であり ヨーギーである
 
心を克服した人にとって
心は最良の友であるが
心を克服できない人にとっては
心こそ最大の敵である

 分かりやすいだけでなく、読みすすめるほどに恋愛小説のようなときめきをおぼえてしまう不思議。上村訳ではしかつめらしい顔をしてアルジュナに教えを説いていたクリシュナ様が、田中訳では一変、まばゆい衣装を身に纏った王子様かアイドルのように顕現します。王子様にしてアイドル、まるでフィギュアスケートの羽生くん!いや、延々ポエムをうたい続けているわけだからまっちーかな。
 
 このところ、寝る前や息子の夜泣きで起こされて目が冴えてしまったときに何節か読むのが習慣になっていたので、読み終えてしまってなんだかさみしいような気さえします。これからも折に触れて読み返したい、大切な1冊です。

 

神の詩―バガヴァッド・ギーター (TAO LAB BOOKS)

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神の詩 バガヴァッド・ギーター

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バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

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