本はともだち

 息子はもうすぐ1歳3ヶ月、相変わらず夜泣きを繰り返している。少なくとも一晩に3回は起きて泣く。

 出産してからこのかた朝まで眠れたことがない。私自身は子どものころからとても寝つきがよく、母曰く「寝かしつけのいらない子」だったそうだ。夫も同じようなものだったらしいので、よく寝るふたりの子がなぜこんなに眠らないのか謎だねえ、と夫婦で話している。息子は新生児のときからショートスリーパーで、周囲から「赤ちゃんが寝ている間にお母さんも休みなさい」とよく言われたけれど、こちらが眠りにつくころ向こうが起きて泣き出してしまうので全然休めなかった。

 寝かしつけも試行錯誤の連続だった。寝室の明かりも豆電球をつけたり真っ暗にしてみたり、授乳ではなく抱っこで寝かせてみたり、アメリカのジーナ式という寝かしつけトレーニングも試したが何もかもダメだった。寝相が悪くてはいだ布団をかけてやる、それだけで起きてしまうこともある。昼間誰にでも人懐こく大らかな子が、夜は信じられないほど神経過敏である。

 去年はこの状況が辛くて仕方なかった。今も辛いことには変わりないが、何だかもう身体が眠らないことに慣れてしまったようだ。人間こうやって問答無用で親になっていくものなのかもしれない。

 今まではそうして息子に起こされると目が冴えてiPhoneを弄ってしまい更に眠れないという悪循環に陥ってしまっていたが、Kindleを買ってからはiPhoneを見る時間が明らかに減った。Kindleのフロントライトは携帯のブルーライトとは違うので、読みながら寝落ちすることもできる。買って本当に良かった。

 冲方丁『はなとゆめ』を読み終えたので今は相変わらずのバガヴァッド・ギーターと、伊集院静『いねむり先生』を並行して読んでいる。迷った末結局ダウンロードしてしまった後者は著者と色川武大の交流を描いた自伝的長編でとても面白い。眠れない自分が阿佐田哲也がらみの本を読んでいるのも何だか皮肉みたいだ(阿佐田哲也は麻雀小説を書く時の色川武大ペンネームで「朝だ、徹夜だ」に由来)。

 小さい頃から本を読むのが好きだった。父の一存で私は幼稚園にも保育園にも行けなかったのだが、小学校で読み書きに苦労しなかったのはひとえに読書のおかげだと思う(その代わりというか当然というか、集団生活には馴染めずに苦労した)。その点では毎日本を読み聞かせてくれた母に感謝したい。

 私も息子が生まれたての頃から積極的に絵本を読み聞かせ、図書館での赤ちゃん向けお話会にもすすんで参加して来たけれど、1歳過ぎの今は何でも壊したい時期らしく、絵本を読んであげようにも、奪い取って折り曲げて破ってしゃぶって終いにはボロボロにしてしまうので、厚くて固い本を渡して好きなようにさせるようになってしまった(取り上げようとすると怒って泣き出す)。落ち着いて読んであげられるのはもう少し先になるだろうか。その頃には物語の面白さを伝えられるようになっていれば嬉しい。

 本を読む、ただそれだけで世界が大きく広がるから、息子も本の好きな子になってくれたらいいなと思っている。いま、寝不足の母が本に助けてもらっているように、いつかきっと息子のよすがになる日が来る。そう信じている。

 でもその前に朝まで寝てもらうほうが先だわね……。