息子を産んだ日のこと

 もう1年2ヶ月前の話になりますが、書いておきたいと思います。

 妊娠初期はそれなりに悪阻もあったし、後期は胃腸炎になって倒れ病院で丸一日点滴を受けるなんてこともあったものの、トータルで見れば順調な妊婦生活というものを送れたんではないかと思います。

 それでも振り返れば妊娠から出産に至る経緯はひとつひとつが小さな奇跡の積み重ねのようなものだったし、無事に生まれて当然の命などないことを実感した日々でもありました。

 2012年12月11日に息子を産みました。予定日は12日なので1日早かったです。12日に生まれれば「いちにいちにいちに」で語呂がいいねえ、などと夫と話していたのが懐かしい……。

 10日明け方に定期的な強い痛みを感じ、これはもしかするのではと産院に電話、当初11日の予定だった検診を繰り上げてもらうことに。産院までは徒歩5分、この時点ではなんとかひとりで歩いて向かうことができました。着替えなど入院グッズも持参の上診察を受けたのですが、医師からは「陣痛はそんなものじゃないですよ。立っていられないほどの強い痛みです。それに胎児はまだまだ高い位置にいて降りてきそうにないし、出産は先ですね、今日は帰宅して経過報告だけ電話ください。どうしても心配なら荷物は受付に預けていってもいいですよ」とのこと。拍子抜け。受付に行ったら医師から何も聞いていないらしくフツーに来週の検診の予約の話をされたのでまたしても拍子抜け。

 母にも一応「陣痛が来たのでもうすぐだと思う」とメールしたら「初産なんだしまだ先よ」と素気無い返事。すごーく痛いけど、出産前で神経過敏になってるだけ?産む産む詐欺?とだんだん自分が信じられなくなりそうに。

 夫は会社から早退して「明日も休めたから安心して」と言ってくれました。しかし定期的に強い陣痛はあるものの、なかなか間隔は短くなりません。医師に言われた通り経過報告電話をしても「痛みがきっちり5分置きになったら入院です」としか言われず。仕方ないのでいつも通り家事したり食事したりでやり過ごしました。もし産む産む詐欺で今日明日で産まれなかったら、実際に出産の時休んでもらえなくなる!どうしよう!とだんだん焦り始めました。でもどう考えてもいつもと違う痛みだし、もうすぐ産まれるな、という感覚に変わりはなかったのです。

 21時、やっと陣痛が5分置きになったので夫とともに産院へ。さすがに今回はゆっくりしか歩けず、痛みのたびに立ち止まるので徒歩5分の道を20分くらいかけて歩いたと思います。病院に着いてほっとしたのも束の間、また陣痛間隔が開く。10分置いても波が来ないくらい。助産師さん曰く「初産はそういうものなんですよ。まだかかりますよ」。あああやっぱり産む産む詐欺だったの?

 陣痛室に入ってからいくら待っても子宮口がまだまだ開かないとのことなので23時に睡眠薬をもらって一旦寝るように促される。「旦那さんも今日は帰って休んでください。早くても明日の昼です」夫帰宅。たまに助産師さんが陣痛室に入ってきてこちらの様子を見て、「うーん、まだですね」と言って出て行く。朝5時過ぎまで「痛い痛い」と言いながらひとりぼっちで苦しんでいました。この約6時間が心細くて一番辛かったです。もし地獄の三丁目というものがあるなら確かにこのとき行ってました。あまりに痛いので「ええい、いい加減産ませてー!」といきみたくなるのですが「痛くてもまだ絶対いきまないで!子宮が破れて取り返しのつかないことになるよ!」と助産師さんに脅されたので、ひたすら耐えました。

 5時過ぎて破水。破水は身体の中でパンパンに膨らんだ水風船がいきなり弾ける感覚なのでびっくりしました。夫に電話して着信拒否されたときはこやつ本当にどうしてくれようかと思いましたが(ぐっすり寝ているところを急に起こされて気が動転したそうな)、何度か電話したのち繋がってどうにか来てもらえました。そこからはあっという間に息子が降りてきて子宮口も一気に全開。分娩室に入ってから30分ほどで2972gの息子を出産、6時39分でした。産むのは想像以上に痛かったけれど、陣痛室で耐え続けたあの苦しみに比べたら、思い切りいきめるだけ気持ちは楽でした。

 結局初めに陣痛を感じてからほぼ24時間で産んだことになります。「まだまだ」「あと数日かかる」と言われ続けたのは何だったのか……。

 もちろん産院側はそれまでの多くの経験を踏まえてそう判断したのだろうし、実際微弱陣痛で産むまで何日もかかった人を知っているので、私のようなケースのほうが少ないってだけの話なんだと思います(そもそも病気じゃないので10人いれば10通りの出産がある)。

 あとで見せてもらった臍の緒がやたら長く、しかもひと結びされており、息子の首に絡まっていたら危なかったと聞いて驚きました。元気に生まれてきてくれて本当に良かったです。

 この出産で、研ぎ澄ませておかなければいけない感覚というものは確かにあるな、と思いました。昨日書いた風通しを良くすることにも繋がっていきます。もし周囲の声に押されて「今日明日で産む!」という覚悟が失せていたら、無事この日に産めたかどうか分からないと思います。

 

  息子は元気いっぱい生まれてきてくれたものの、胎内で羊水をたくさん飲んでしまったらしく、吐き続けたり血便を出したりでしばらくは授乳もままならず退院しても心配の種は尽きませんでした。そんな生まれてからのあれこれはまた追々書いていくことにしますが、1歳2ヶ月現在、当時の心配が嘘のように、大きく大きくすくすくと成長曲線を突き抜ける勢いで育っています。子どもが無事に生まれて無事に育つ、このありがたくて幸せな時間をいつまでも忘れずにいたいと思います。