お針子と唄うたい

あのひとは今日も舞台で恋に狂った女の唄うたう

わたしは朝から晩まで工場のミシン踏む

 

窓を打つしずくは 幸せの合図よ

あのひと駆け足で 坂道降りてくる

 

雨が降ればあのひとは迎えにやってくる

黒いこうもり傘を広げ迎えにやってくる

 

舞台のない日はアパートの天井見上げ一日過ごすあのひと

今日も朝から晩まで同じシャツを縫い続けるわたし

 

あの頃のわたしは 綺麗な衣装着て 拍手を浴びたのよ

昔のことだけど

 

雨が降ればあのひとは迎えにやってくる

黒いこうもり傘を広げ迎えにやってくる

 

わたしたちの子供は きっと唄のじょうずな娘だったはずよ

もう叶わぬ夢だけど

 

雨が降ればあのひとは迎えにやってくる

黒いこうもり傘を広げ迎えにやってくる

雨が降れば幸せも優しく降りてくる

黒いこうもり傘を広げ迎えにやってくる

 

 

(2004)